爆弾と妖刀と人間のRPG
人間は多分に忘れやすい生き物であって、どこかの偉い人曰く人間は忘れることで生きていけるらしい。
しかしながら、忘れやすい一方でなにかしらの鍵があればそこから芋づる式に思い出されることもよくある。
近年では多くの人がスマートフォンをもち、LINEだとかtwitterだとかを使うので大抵の会話や思考の記録が残りやすい。さらについ最近気づいたことなのだが、GPSをオンにしながら移動すると、GoogleMapにすべての移動の記録が残るのだ。
これはすごいことで、旅の行程をいつでも思い出すことができる。もし結婚して何十年かたった後に、夫婦の仲が冷えきってしまっても簡単に初デートを再現してアツアツだったあの頃に戻れるという訳だ。すごい。
ちなみに、僕の3月の総移動距離は3800kmぐらいで総歩行距離52km、乗り物の中にいた時間は合計47時間らしい。こんなことまでわかるんかい。
とまあ、こんな感じでスマートフォンは僕らの記憶の形を変えたといっても過言ではないのだが、スマホを持つ前の記憶、おおよそ小学生の頃以前は他の媒体に残されているデータをもとに引っ張ってくることとなる。
他の媒体と言えばゲーム機だとかケータイだとか、あるいはパソコンだとか。
ただ、ゲーム機に残されてる情報なんてごくわずかで、100%自らの意思でつくられたものなんて「うごめも」のデータぐらいだろうか。あとはゲームのセーブデータを見て懐かしむぐらいしかない。
そして、ケータイ。メールの履歴から当時の友達とか恋人とかとのやりとりが見つかればそれはそれは素敵な記憶が思い出されるだろう。あるいは当時好きだった子にどんな風にメッセージを送ろうかと悩んだ挙げ句、意味不明にネズミのぬいぐるみの写真を送った形跡が出てきたりして「こいつなに考えてるんだ?」状態になったりするかもしれない。これは僕だ。
画像も見れる。写真だけに限らず壁紙とかから、当時好きだったものをかいまみることができる。
あとは着メロとかか。これは僕は全くわからない部分なのだが、たぶん当時の嗜好が現れてるはず。
ただ、ケータイから得られる情報ってのは全部ではない。現役で稼働している頃なら回線に接続して引き出せたはずの情報の多くが荼毘に付しているからだ。
実際にiモード向けのアプリはほとんどサービス終了している。
さて、こうなればパソコンだ。
これはパソコンでインターネットをしていたもの達にとっては本当に記憶の宝庫となっている。
当時はまっていたRPG、ブックマークして遊んでいた脱出ゲーム、狂ったように遊んでいたプーさんのホームランダービー、フラッシュゲームまとめサイトとかはすごくお世話になった。
ゲームだけじゃない。アメーバピグのアバターの服装を見れば当時どんなファッションに憧れていたのかもわかるし、リアルの友達がアメーバでも友達になっていたのなら、そこから当時の関係も見つけることもできる。
そして、アメーバといえばブログ。ブログの文章は当時どんなことを考えていたのかが良くわかる。なんならブログのタイトルだけでもよくわかる。僕のは「なるほど日記」とか書いてあった。意味不明なネーミングセンスはこの頃からあったらしい。でなきゃ自分のブログに「開拓地」なんてふざけた名前つける人間に成長しない。
この辺の情報は全部古いXPのパソコンを引っ張り出してきて見たものなのだが、なにもインターネット上にあるものだけがパソコンに残された記憶ではない。
年齢が年齢だったらたぶんダウンロードしたアダルトなビデオなりゲームなりとかがあるのかも知れないが、僕は当時はまだ小学生。さすがにそんなもの無い。
なので、そこまでわくわくもせずにパソコン内のデータを漁っていたところ、RPGツクールのデータたちを発見してしまったのだ。
当時の僕はなにを思ったのかゲームを作ろうとしていた。そのためにゲーム製作のためのソフトをダウンロードしていた。それがRPGツクール。
しかしながら、記憶が正しければ僕はゲームを完成させることはできなかった。確か初めから大作を作ろうとした結果、作っていく課程で飽きてしまったのだ。
もしあの時簡単なものでも完成させていたら、きっと今の自分とは少し違った自分がいただろう。要するにこのデータは僕の破れた夢の跡なのだ。
そう思うと当時どんなゲームを作ろうとしたのか気になるじゃないですか。もしかしたらすごい才能が埋もれているかもしれない。
そんなことを思いつつデータを開いて見るとゲームが起動してタイトルが表示される。
さあ、どんな才能が埋もれていますかなと思って見ていると表示されたのが
「爆弾と妖刀と人間のRPG 」
······はぁ?
なにこれ。
こんなの作った覚えがない。
もしかしたら初めから準備されているお手本作品かなと思ってプレイしてみるのだが、どう考えてもクオリティーが自作のそれである。
これを作ったのは紛れもなく自分。しかし、なぜこんなタイトルなのかは全く記憶にない。いくら狂ったネーミングセンスとはいえ、意味もなくこんなタイトルつけるほど狂ってるわけないはず。
どうしても気になったのでゲームを続けていくが、肝心のストーリーが二番目の町に行くための橋を封鎖しているチンピラを倒すとこまでしか作られておらず、爆弾と妖刀の謎は一向に解けない。
ゲームの製作モードに入ってみたところ、追加でわかったのはどこかでヒロインが出てきて仲間になるということだけだった。
しかし、このヒロインの設定をみてみると、何かがおかしい。
職業は魔導師、見た目はかわいい女の子、ここまでは普通。
問題は能力が全て爆発に関係するものとなっていることだ。
ヒロインが爆発する。なんなら自爆なる能力まである。最高レベルで覚える能力なんて、
「爆発の祈り」:敵味方共に爆発し、体力が残り1になる
ですからね。
正直なんでこんなイカれたキャラを作り出したのかよくわからない。
ただ、僕の行動パターン的にこのキャラはゼロから思い付いて作ったのではなく、なにか元ネタがある可能性が高い。
記憶の細い糸とgoogleを頼りに調べていくと、途中で爆弾をくくりつけられた女の子がレイプされるというどういう性癖向けか良くわからないエロ漫画を経たりして、一つの答えにたどり着きました。
ある日、爆弾がおちてきて 世にも奇妙な物語 - YouTube
放送が2013年秋なので小学生の自分が見れたわけがないのだが、その謎はすぐに解けた。
ゲーム製作をやめた半年後ぐらいに、突然思い立って再開したのだ。そのときの設定としてこの爆発する女の子が取り入れられた。
自分の作品に採り入れてしまうぐらい影響を与えたこの作品、見てもらえばわかるが完全に王道ボーイミーツガールなのだ。純愛である。
きっとあの頃の僕はこんな純愛ラブストーリーに憧れていたのだ。
結局妖刀については全くわからなかった。でも爆弾の真意がわかっただけで満足だ。やっぱりこのデータは僕の破れた夢だった。
僕は好きな女の子にネズミの画像を送りつけるような人間になりたいわけじゃなかったんだ。
まして、こんなクソ文章を垂れ流す虚無みたいな存在になるなんて思ってもみなかっただろう。
ある人曰く人間は忘れることで生きていけるらしい。でも、忘れることと同時に思い出せるからこそ人間らしいはずだ。
破れた夢も僕の一部。もちろん狂ったネーミングセンスにだってこうして原点があるんだから。