東京オリンピックがあれば、また会いましょう

注:この記事は成人式直後に書かれたものです。

2020年、東京にオリンピックは来なかった。

2019年末は間もなく東京オリンピックの年がやってくると、どこかいつもよりも楽し気だったかもしれない。
オリンピックに合わせて作られた大河ドラマ「いだてん」は、途中で2度もキャストに不祥事が起こりどうなることやらと心配もしたが、終わってみれば非常に面白く、かつよく作りこまれたドラマであった。国威掲揚ドラマだといってしまえばそれまでかもしれないが、このドラマの続きを見れるのは現代を生きる我々なのだと思うと、夏が来るのが一段と楽しみになったものだった。

もちろん、当時の僕にとってはあと数週間に迫ったセンター試験の方が大事であったため、そんなに浮ついている暇もなかった。それでもどこかわくわくしてしまうような、そういう力があるぐらいオリンピックイヤーがやってくることに皆盛り上がっていたように思う。

だけれども、わずか数か月で状況は一変。ついにオリンピックは1年延期となってしまった。



そこからが悲惨だった。パンデミックの波は日本にもあっという間に押し寄せ、あれよあれよという間に緊急事態宣言なんて言うものが出され、世の中はとにかく自粛自粛自粛。僕については大学に合格するも夏が過ぎるまで登校することはなく、自分史上もっとも暇な夏休みを過ごし、やっと秋になり登校できるようになっても累計で十数回登校しただけで大学1年が終わろうとしている。経済的に精神的に苦しくなった方もたくさんいたのだろうが、僕だって貴重な大学生活の4分の1をこんなことに使ってしまったのだ、悲惨以外の何物でもない。

そんな中でも、嬉しいことももちろんあった。
ようやく始まった対面授業では志を同じくする同級生と仲良くなれたし、いいバイト先に巡り合うこともできた。
そして、つい最近のことだが、成人式もどうにか開催された。
そんなわけで成人式の話を少し。


中学卒業時点から5年も経ちますと、一部の仲の良かったやつら以外大半は大して記憶にないものです。ましてこの状況下で行う成人式ですから、ほぼ全員マスク着用なわけで顔が半分以上見えない。もはや誰が誰だかわかりません。しかも相当な人数が来ているのですから、おおよそ中学校ごとに席が決まっているとはいえ話しかけたい誰かを見つけるというのは至難の業です。向こうから声をかけてくれた人を除いて、誰かを見つけることは僕にはできませんでした。

ちなみに、会場は高校ラグビーの聖地として知られる花園ラグビー場、1年前にはここでワールドカップの試合も行われていた場所です。
式は特に問題なく進み、IPSの山中教授や囲碁の井山棋士なんかのビデオメッセージがスクリーンに放映されたりしてました。僕は途中から式そっちのけでバイト先と電話で仕事の依頼を受けていたところだったのでそれどころじゃなかったです。これでもいいバイト先なんですよ。


成人式は式が終わってからが本番といわんばかりに、会場を出てから集合する新成人たち。いかんせん人が多いので、お互いどこにいるのかわかりづらい。目印となるものといえば、ラグビー場の入り口上部に掲げられている大きなHANAZONO RUGBY STADIUMの文字です。皆さんスマホに向かって口々に「Mの下!!」「Nの前!!!」とか言ってましたが、それで縦軸は決まっても横軸が決まらないのでなかなか会えるもんじゃありません。NとかAとかだと複数あってそもそもわからないですし。
そうやってどうにか集まってみんなで写真を撮っている集団がたくさんあったのですが、僕には無縁でしたね、まして振り袖姿のかわいい女の子となんて需要がない、中学の卒業式みたいに誰彼構わず写真を撮るみたいなことはありません。お互いその辺は理解しています。大人ですから。


早く解散しろと運営が声をかけているのですが、そんなもの届くはずもなく浮かれる群衆。帰り際に見たんですが、明らかに酒で酔いつぶれて吐いてた人とかもいましたね。救急車を呼ばれていました。5年もたてば成人式の良い思い出になるのでしょうか。


早々と用事もないので撤退し、ちょうど昼時、集まって集まって会食というわけにも行かないのでどうしようかと仲間内で相談していると話は突飛な方向に向かい、「ドミノピザで無料でもらえるピザを各自もらってオンライン飲み会」ということに。こういう馬鹿気たことを真面目にできる友達がいるというのは本当にうれしいことです。馬鹿みたいに成人式後に集まって呑みに行くような奴らと過ごすよりよっぽど有益で安全、そして先進的。やはり持つべきものは友だ。


僕は家が一番近くの奴を自分の家に招き、二人で参加した。彼は推薦で高知大学に行くことになった、強烈な虫好きである。高校は地元の中堅どころの高校に行ったのだが、僕は同じ中学だった同級生の中で最も彼を尊敬している。好きを貫いて、それで進路まで決め、そして大量の虫とともに一人暮らしをしている彼は本当に毎日が楽しそうだ。正直うらやましいぐらいだ。一方の彼はドミノピザの求人票を見て給料が高いことに驚き、そして羨ましがっていたのだが。隣の芝生は青いということか。

オンライン飲み会の時間は本当に楽しく進んでいった。お互いの近況報告に始まり、昔話をしてみたり、バカ話をしてみたり。かとおもえば、画面越しの友人が突然謎の生物に変貌したり、漫画みたいなキラキラおめ目になったり、背景を変えて世界旅行をしてみたり。オンラインは決してオフラインの劣化版じゃあない。オンラインにはオンラインなりの楽しみ方がある。新しいものに適応していけることこそが、若者であることの特権ではなかろうか。


そんな中で、高知大学に行った友人の家に凸るという話が持ち上がった。実はもう2年ぐらいずっと言っているのだが、未だに誰一人実現していない。僕も本当は夏休みに行きたいと思っていたのだが、世の中があんな状態じゃ行けたものではなかったのだ。


彼は虫の世話のため、夏の間もこっちに帰ってくることはなさそうだという。虫がたくさんいるなかで寝れるのなら、いつ来てくれたって構わないと言ってくれた。


しかし、大阪から行っても迷惑にならないのだろうか。万が一のことが起こって、彼が居心地悪くなるようなことがあってはならない。今年の夏、どうなっているかなんて誰もわからない。

そこで、僕はふと思い付いたかのようにこんなことを言った。
「じゃあ、オリンピックがあったら行くわ」

"行きたい"とも"行けたら行くわ"ともとれる奇妙な条件だ。どうしてこんなことを思い付いたのだろうか。ワクチンとか、もっと現実的な条件もあったはずだ。なのに、なぜかここでオリンピックだった。


平穏にオリンピックが開催されて、海外からも客が来て、またお祭りムードに包まれる未来に希望を持ったからだろうか。

成人式すらままならず、開催できなかった他地域からは妬みの声すら聞こえてくる。こんな中でも想像しうる輝かしい未来、オリンピックにはそれだけの力があると思えるんだ。


こんな提案を彼は、そのときは一緒にお酒を飲もう、と快く受け入れてくれた。

彼が泊めてくれるというのなら、お酒ぐらいいくらでも買っていってやろう。







なんだかんだで時間があっという間に過ぎていき、そろそろお開きの頃合いとなった。高知からこのために来ていた彼はその日中に戻らなくてはならないらしい。

帰り際、彼はこう言った。
「じゃあまた、オリンピックがあったら夏に会えるなぁ」

どうやら、本当にそういうことで合意となったようだ。こうなったら、なんとか開催されてほしい。